【人事労務コラム】最低賃金1,500円時代は来るのか?|社労士 岡山・倉敷
「4社に1社は対応できない」との声も。今後の動向と対応策を考える
2024年、日本商工会議所の調査によると、最低賃金が1,500円に達した場合、**「4社に1社は対応できない」**と答えた中小企業があることが報告されています(※出典:日商「最低賃金に関する調査」2024年1月実施)。
こうした現場の声を受けてか、政府が目指す最低賃金の目標には静かな変化が見られます。
かつて一部報道や有識者の議論では「2020年代に全国加重平均1,500円を目指す」といった方針が取り沙汰されていましたが、これは正式な閣議決定等に基づいたものではなく、政策の方向性の一つとして示された段階のものでした。
しかし、2023年8月、政府は「新しい資本主義実現会議」において、改めて以下のような目標を明示しました:
2030年代半ばまでに、全国加重平均を1,500円とすることを目指す。
📎 出典:内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2024(骨太の方針2024)」p.13
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2024/2024_basicpolicies_ja.pdf
つまり、目標年次が「2020年代」から「2030年代半ば」へと静かにスライドした形になります。
現在も一部メディア等では古い表現(「2020年代に~」)が見られますが、実際には**政府としての公式な目標は「2030年代半ば」**が現時点の最新の方針です。
【2025年度の最低賃金動向】
2024年度までの全国加重平均の推移は以下のとおりです。2025年度の改定幅にも注目が集まっています。
年度 | 全国加重平均額 | 上昇額(前年比) | 上昇率(前年比) |
---|---|---|---|
2021年度 | 930円 | +28円 | +3.1% |
2022年度 | 961円 | +31円 | +3.3% |
2023年度 | 1,004円 | +43円 | +4.5% |
2024年度 | 1,055円 | +51円 | +5.1% |
※出典:厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/index.html
【対応策:賃金引上げと効率化】
最低賃金は法令で定められており、これを下回る賃金を支払うことは違法です。したがって、賃上げは避けて通れません。
経営者としては頭が痛い問題ですが、視点を変えれば、生産性向上や助成金の活用を検討する好機でもあります。
対応策 | 内容 | 補足 |
---|---|---|
賃金体系の見直し | 定額手当の基本給化などで最低賃金との整合を図る | 同一労働同一賃金への対応も |
助成金の活用 | 業務改善助成金(※対象:生産性向上と賃金引上げ) | 最大600万円(条件あり) |
効率化・DX化 | ITツール導入で人件費を抑制 | 導入支援補助金との併用も可 |
業務分担・再構築 | 外注・パート・シフト見直しなど柔軟な働き方 | 固定費→変動費化の視点も有効 |
最後に:経営者として「守るべきライン」
経営状況は企業によって様々です。「上げたいが上げられない」という現場の声は決して他人事ではありません。
しかしながら、最低賃金の遵守は企業としての最低限の責任であり、これを下回る給与設定は法令違反となる点には注意が必要です。
まとめ:2025年度の審議動向に注視を
2025年度の最低賃金改定に向けた審議は、例年通り夏(7月頃)に開催される中央最低賃金審議会で本格化します。
物価高や人手不足の継続を考慮すれば、再び50円以上の大幅な引き上げとなる可能性もあります。
目標年次が「2030年代半ば」に“静かに”見直された今こそ、企業には冷静な情報収集と中長期的な備えが求められます。
最低賃金引き上げへの対応、助成金活用、人件費見直しなどのご相談は、ぜひ当事務所までお気軽にお問い合わせください。