人事労務と助成金に特化した岡山県最大規模の事務所
お電話でのお問い合わせ
086-436-6286
平日9:00~18:00

【人事労務コラム】「労働者」の定義、見直しへ|社労士 岡山・倉敷

「労働者」の定義、見直しへ

~変わる働き方と法律のギャップ~

「労働者」とは誰のことを指すのか――。
これまで当たり前のように使われてきたこの言葉が、今、大きな見直しの岐路に立たされています。フリーランスや副業、ギグワークなど、近年の働き方の多様化により、「誰が労働者なのか」という線引きがますます曖昧になってきました。

2025年5月、厚生労働省は「労働基準法における『労働者』に関する研究会」の初会合を開催し、定義の見直しに向けた議論をスタートさせました。これは、労働基準法が定める「労働者」の概念を、時代に即したものへとアップデートする重要な一歩です。

本コラムでは、現行の「労働者」の定義とその課題、そして見直しの背景や今後の動向について、社労士の視点から分かりやすく解説します。

そもそも労働者の定義とは?

現在の「労働者」の定義は、労働基準法第9条に規定されています。

📘 労働基準法 第9条(労働者の定義)

「この法律で『労働者』とは、職業の種類を問わず、
事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者 をいう。

🔍 要点を分かりやすくすると…

  • 「使用される者」 → 指揮命令関係がある(誰かの指示で働いている)

  • 「賃金を支払われる者」 → 報酬が賃金として支払われる(出来高払いなどでもOK)

🧩 裁判例などでの判断基準(実務上のポイント)

労働者に該当するかは、実態に即して総合的に判断されます。以下のような基準がよく使われます(代表例として最高裁昭和59年の「日本郵便逓送事件」など):

判断基準 内容
使用従属性(指揮命令の有無) 業務の指示、拘束性、勤務場所や時間の指定などがあるか
報酬の性質 報酬が労務の対価(=賃金)かどうか
他人の代替性 他人に代わりにやらせることができるか
働く者の独立性 独自に営業しているかどうか、経費負担の有無など

🧭 なぜ今これが議論になっているの?

近年、「労働者」という定義があらためて注目され、見直しの議論が進められている背景には、いくつかの大きな社会的な変化があります。まず、フリーランスやギグワーカーなど、これまでの典型的な雇用とは異なる働き方が急速に広がってきたことが大きな理由の一つです。こうした働き方をしている人たちは、企業と雇用契約を結んでいないため、労働法による保護を受けにくく、労働条件や健康・安全面などで十分な支援が行き届かないケースが増えています。

また、こうした「新しい働き方」が例外的なものではなく、社会全体で広がりつつあることもあり、これまでの「労働者」の定義では実態に対応しきれなくなってきているという問題もあります。実際に、労働者に当たるかどうかの判断が難しいために、労災や最低賃金の適用可否があいまいになり、現場で混乱が生じているケースも少なくありません。

こうした状況を受けて、厚生労働省では「労働者」のあり方を現代の働き方に合った形で見直していこうという動きが始まっているのです。

「労働者」の定義は、今後どのように見直しされるのでしょうか?

■ 見直しの背景と課題

現在の労働基準法における「労働者」の定義は、「職業の種類を問わず、事業または事務所に使用され、賃金を支払われる者」とされています。この定義は長らく使われてきましたが、実際の適用にあたっては、最高裁判例などで示された要素、たとえば「使用従属性」や「指揮命令の有無」などが判断基準となっています。

しかしこの運用では、契約形態が多様化している現在の働き方に対応しきれない場面が増えてきました。特にフリーランスや業務委託の働き手に対して、実質的には労働者性があるにもかかわらず、法律上は労働者として認められず、最低賃金や労災保険などの保護を受けられないケースもあります。また、働く側と使う側の間で「自分は労働者なのかどうか」が不明確なまま契約が進むと、後になってトラブルに発展するリスクもあります。

こうした背景から、現行の定義や運用に限界があるという指摘がなされており、より実態に即した労働者の範囲を見直す必要性が高まっています。

■ 今後の検討方向

厚生労働省の研究会では、今後の検討にあたり、まず現行法上の「労働者」の定義と、それに基づく判断枠組みの課題を丁寧に整理していくことが予定されています。そのうえで、現状の社会・経済状況や、働き方の変化に対応した新たな枠組みのあり方について、幅広い観点から検討が進められる見込みです。

また、近年ではEUや韓国など、諸外国でもフリーランスやプラットフォームワーカーといった非典型的な働き手に対する法的保護の整備が進められており、そうした国際的な動向も踏まえた議論が行われると見られています。

このように、「誰が労働者にあたるのか」を定めることは、単なる法律用語の見直しにとどまらず、働く人の権利をどう守るか、また企業がどのような責任を負うべきかという点にも直結する重要なテーマです。今後の議論がどのような方向に進んでいくのか、労務管理に関わる立場としては引き続き注視していく必要があります。

まとめ

現在の研究会は始まったばかりで、具体的な定義変更や法改正の時期は明らかになっていません。今後、複数回にわたる議論を経て、最終的に報告書としてまとめられる見通しです。

労働者かどうかの判断は、賃金・労働時間・安全衛生といった労働法上の保護を受けられるかを左右する極めて重要な基準です。見直しの動向によっては、これまで“労働者に該当しない”とされてきた働き方にも、新たな保護が及ぶ可能性があります。

多様化する働き方に対応した法制度をどのように構築していくのか――その議論の行方を注視しながら、企業としても労務管理のあり方を柔軟に見直す必要があるでしょう。

 

 

 

CONTACTお問い合わせ

SPECIALIZED SITE専門特化サイト