【人事労務コラム】賞与(ボーナス)をめぐる法的ポイントと経営判断|社労士 岡山・倉敷

賞与は、従業員のモチベーション向上や採用力の強化に役立つ一方で、経営者にとっては本来「任意の支出」であり、 法律上は支給の有無や金額を自由に決定できます。
ただし、一度制度化すると「期待権」が発生し、減額・廃止が難しくなる点には注意が必要です。
本コラムでは、賞与の法的性質・期待権・就業規則・相場・社会保険料・助成金要件・月給増との比較までを、経営者の意思決定に役立つ形で整理します。
1. 賞与の法的性質と「期待権」
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賞与は法定の必須支給ではなく、労基法上は月給などの定期賃金とは別物。
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しかし、
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過去に継続的な支給実績がある場合
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就業規則や賃金規程に明記している場合
は、従業員に「今年も出るはず」という期待権が生じます。
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期待権が認められる状態で、急な未支給や大幅減額を行うと、
不利益変更・契約違反として法的リスクが発生する可能性があります。
➡️ 賞与は任意であっても、制度化した瞬間から“支給を前提とした運用”が必要になる点が、経営上の重要ポイントです。
2. 就業規則における賞与の扱い
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就業規則に賞与制度を明記すると、会社にはその運用義務が発生します。
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法律より有利な規定を置くことは可能ですが、
規程と異なる運用は法的トラブルや助成金の不支給につながります。
実務上は、以下を明確に定め、規程どおりに運用することが重要です。
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支給対象
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支給条件
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計算方法
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支給時期
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業績による変動がある場合のルール など
3. 賞与の目安額と一般的な相場
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厚生労働省
キャリアアップ助成金Q&A(令和7年度版) によると
正社員要件の一つとして
「6か月あたり5万円以上の賞与支給」
が参考指標として示されています。 -
一般的な中小企業では、
「月給1か月分 × 年2回(夏・冬)」が多い傾向です。 -
決算賞与は業績連動型のため柔軟性が高く、
通常賞与ほど強い期待権は生じにくいと言われています。
4. 社会保険料のポイント
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賞与も 健康保険・厚生年金の保険料の対象 です。
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昔は賞与が社保対象外だった時代もありましたが、現在は完全に対象となります。
賞与支給時は、
本人負担+会社負担の社会保険料をまとめて支払う必要があり、
毎月の給与へ組み替える場合に比べ、キャッシュアウトのタイミングが偏りやすくなります。
なお、年間の総額で比較すると
給与に組み込んでも、賞与として支給しても、会社負担の社会保険料はほぼ同じです。
違いは「支払時期」と「柔軟性」にあります。
5. 月給増 vs 賞与の選択肢
近年、若手社員を中心に、賞与よりも毎月の給与の安定的な引き上げを望む声が増えています。特に生活費や将来のライフプランを考える上で、年に数回の賞与よりも毎月確実に手に入る給与の方が安心感につながるためです。そのため、企業にとっても、賞与の額や回数だけでなく、月額給与のベースアップを含めた総合的な賃金設計が求められるようになっています。
それぞれメリットは次の通りです。
◆ 月給増のメリット
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従業員に安定感を与える
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期待権・不利益変更リスクを回避できる
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キャッシュアウトが月単位で平準化できる
◆ 賞与のメリット
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業績連動型にすれば、業績悪化時に減額・未支給が可能
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モチベーション向上や採用力の強化につながる
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変動費として扱え、柔軟性が高い
6. 助成金要件との関係
キャリアアップ助成金など、助成金に取り組む企業では、賞与支給が助成金要件になっている場合があります。
賞与の支給対象・条件・差別化の基準を明確にしておく必要があります。
賞与制度については、
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総額人件費
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社会保険料
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業績の変動
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助成金要件との整合性
を総合的に踏まえて検討することが重要です。
7. 経営者向けまとめ
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賞与は任意だが、制度化すると期待権が発生する
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就業規則に記載した場合は、規程どおりの運用が必須
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賞与も社会保険料の対象で、支給時の会社負担を踏まえて予算化が必要
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年間トータルでの社会保険料負担は、賞与でも月給増でも大きくは変わらない
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月給増は安定化、賞与は柔軟性・モチベーション向上にメリット
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助成金を活用する企業は、賞与制度の「差別化ルール」や運用の正確性が必須
■ さいごに
賞与を就業規則に記載することは法的には任意ですが、
一度制度化すれば期待権が生じ、規程どおりの運用が求められます。
経営計画上は、賞与を 「固定費に近いもの」 とみて慎重に設計することが安全です。
賞与の制度設計、月給増への切り替え、助成金対応など、
個別の状況に応じた検討が必要なケースも多くありますので、
気になる点があれば、どうぞお気軽にご相談ください。






