【人事労務コラム】労働基準法40年ぶり見直し議論(続編) ― 賃金・勤務時間・副業ルールはどう変わる?経営者が知っておきたい4つの論点 ―|社労士 岡山・倉敷

前回のコラムでは、労働基準法の見直し議論の背景と、
「労働者の健康確保」に関わる論点について整理しました。
今回はその続編として、賃金の計算方法や勤務時間、副業・兼業といった、より実務に直結するテーマを取り上げます。
なお、今回ご紹介する内容は、すでに成立・施行された制度ではありません。
2025年度の国会には提出されないことが決まっており、法改正自体は延期されています。
ただし、長年にわたり検討されてきた見直し議論であることから、
将来的に示される「方向性そのもの」が大きく変わる可能性は高くないと考えられています。
本コラムでは、数ある論点の中から、
経営や労務管理に影響が出やすい4つのポイントに絞って、
「もし実現したら、企業側にどんな準備が求められるのか」という視点で解説します。
1. 有給休暇中の賃金算定を「通常賃金1本化」に
現行制度の課題
-
有給休暇の賃金算定は企業によって3種類ありました。
-
通常賃金
-
平均賃金(過去3か月の給与平均)
-
標準報酬日額
-
-
平均賃金を用いると、有給取得時の給与が減ることがあり、従業員に不利益が生じる場合がありました。
改正案の方向性
-
「通常賃金」に統一(1本化)
-
計算がシンプルになり、従業員も企業も管理が容易
-
特に出勤日や勤務時間が日ごとに異なるパートタイマーの給与計算も合理的に行いやすくなります
-
注意点:勤務契約書で労働時間が定まっていない場合は、3か月間の平均労働時間を基準に賃金を算定する方法が想定されています
2. 勤務時間外の連絡拒否権(プライベート時間の保障)
背景
-
チャットアプリやメールで勤務時間外に上司から連絡が来るケースが増加
-
欧州では「デジタル断権」制度があり、勤務時間外の連絡を制限する動きがあります
改正案の方向性
-
連絡拒否権を企業にガイドラインとして設ける
-
罰則はないが、企業として制度化することが推奨される
-
一般社員は勤務時間外に通知を受けない運用(役員は緊急時のみ連絡可能など)
3. 副業時の割増賃金の「通算ルール廃止」
現行制度の課題
-
複数企業で働く場合、労働時間を通算して割増賃金を計算する必要があった
-
管理が煩雑で、副業を制限する会社が多かった
改正案の方向性
-
A社とB社の勤務時間を通算せず、それぞれの会社で独立して割増計算
-
副業者にとっては一部割増が減る可能性あり
-
企業にとっては副業許可のハードルが下がり、副業促進・人材確保に寄与する可能性
4. 週44時間特例(小規模事業や特定業種)の是正
現行制度
-
美容院、接客業、病院などで従業員が12人未満の事業所は、週44時間労働が可能
-
土曜午前のみ勤務など、労働時間が不規則になりやすい
改正案の方向性
-
44時間特例を廃止し、原則40時間に統一
-
労働者の負担軽減や過重労働防止につながる
-
企業側のコスト増加(残業代支払増)や営業時間調整が必要になる場合あり
経営者が押さえておくポイント
-
有給休暇の給与算定を統一
-
勤怠管理システムの設定や就業規則の確認が必要
-
-
勤務時間外の連絡ルールの整理
-
従業員のプライベート確保と労働安全の観点から検討
-
-
副業・兼業の管理ルール見直し
-
通算廃止による給与計算簡略化と、副業促進効果
-
-
週44時間特例の廃止に備えた人員・営業計画の見直し
-
特に小規模店舗・接客業・病院・美容院などに影響
-
まとめ
今回の見直し議論を通して見えてくるのは、
「複雑な例外ルールを減らし、シンプルで管理しやすい制度にしていこう」という大きな流れです。
有給休暇の賃金計算、副業・兼業の扱い、勤務時間の考え方などは、
制度が動き出してから慌てて対応するよりも、
今のうちに自社のルールや運用を点検しておくことが、結果的にリスクを減らします。
今回の内容は、
「今すぐ対応しなければならない改正」ではありません。
しかし、制度は突然変わるように見えて、実際には少しずつ方向性が示されながら動いていきます。
制度の整理や実務への影響について、
「自社の場合はどうなるの?」と迷われることも多いかと思います。
何かお困りごとがありましたら、お気軽にご相談ください。






